支配者 2
○渋谷・スクランブル交差点
林田がスクランブル交差点の真ん中で立ち止まって、伸びをする。
林田「ああー」
林田が辺りを見回す。多数の通行人が林田の目の前を通り過ぎていく。
林田「なんかビルが多いな」
信号が赤に変わる。通行人が足早に横断歩道を渡っていく。林田は立ち止まったまま。乗用車が林田にクラクションを鳴らす。
運転手「早く渡れよ!この野郎!」
林田がゆっくりと乗用車の方を見る。
林田「ビルも多いし、車も多い。こんなに沢山の車はいらないんじゃないか?」
乗用車が林田にクラクションを鳴らす。
林田「そうだ!こんなに車いらないんじゃないか?そうだ!車の数は今の半分でいいんじゃないか?いや。半分でも多いか!ってか車っていらないんじゃないか?無くてもいいんじゃないか?」
街頭モニターにニュースキャスターが映る。
キャスター「ここで臨時ニュースです。たった今、国会で自動車規制法、通称『禁車法』が全会一致で可決されました。この決定を受けまして、たった今、たった今から自動車を運転することも、乗ることも、所有することも全面的に禁止になります」
警官が自転車でどこからともなく大量にやってきて自動車に乗っている人を片っ端から逮捕していく。
林田「はっっははっはは。これで環境問題も一気に解決だ」
○渋谷・町中
林田がゆっくりと車道を歩く。
車に乗っている人たちが次々と逮捕されていく。林田がそれを見て、ニタつきながら町を歩く。
林田「おや?あれは?」
林田が目を細める。
林田の視線の先に初老の女性が警官に捕まっている。
林田「母ちゃん!!」
林田の母「離してよ!ただ車に乗ってただけじゃない。ほら見てこの免許証。私は免許とってからずっと無事故、無違反なのよ」
林田の母(59)が警官にゴールド免許を見せる。
警官「もう、こんなもの必要ないんだ」
警官が林田の母の免許証を破って捨てる。
林田が警官の元に走り寄っていく。
林田「やめろ!その手を離せ!母ちゃんにさわるな」
警官「うるさい。貴様も逮捕するぞ!!」
警官が林田を払いのけて、林田の母親を連行していく。
林田「なんで、だめなんだ。何で俺の思ったとおりの世界じゃないのか?」
神様「お前の思ったとおりの世界じゃないか」
神様がいつの間にか林田の後ろにいる。
林田「わぁ!びっくりした!!いつの間に?」
神様「お前が車が無い社会を望んだから、車が無い社会が実現した」
林田が母親が乗せられたパトカーを見る。
林田「でも…俺は…」
神様「世の中は全て表裏一体。誰かにとって良いことは、他の誰かにとっては悪いこと。その逆もまた真なり。一度動き出した流れは止められない」
林田「そんなぁ…」
○健康荘・林田の部屋(夜)
林田が布団に入って真っ暗な部屋の中で天井を眺めている。
隣の部屋からは大音量のテレビの音が聞こえてきている。
林田が両耳をふさぐ。
林田「一度、動き出した流れは止められないか…」
○繁華街
林田が繁華街を歩いている。
おばちゃんが歩道を自転車で暴走していて林田が轢かれそうになる。
おばちゃん「気をつけてよ」
林田の心の声「気をつけるのは、お前の方だろうが、とりあえず…」
林田「自転車は禁止だな」
林田が一息ついて辺りを見回すと自転車に乗っている人がことごとく逮捕されている。
○図書館・中
図書館で林田が席に雑誌を積み上げて雑誌を読んでいる。
林田の心の声「世の中が思い通りになるとしても、どうすれば世の中が良いふうに動いていくか、悪いところを直さないと、良くするのは難しい事に気がついた俺は、まず世の中の悪いところについて勉強することにした」
○図書館・外
林田がすっきりした顔をして空を見上げている。
林田の心の声「俺たち日本人がこうして豊かな生活を送っている間、世界中では貧困に苦しんでいる人たちが大勢いる。…昨日までの俺を含めて…生きるのに困っている人を助けるのが先決だ。この世に命より尊いものなど無いのだから…」
林田「世の中から貧困を無くしてくれ!」
林田が空に向かって手を突き出す。
○健康荘・林田の部屋(夜)
林田が布団の上に座ってテレビを見ている。
林田の心の声「そして、世の中から貧困は無くなった。いうなれば世界総中流階級だ。格差社会は終わった。みんなが同じ生活を送る」
テレビではニュースが流れている。
林田「え!?」
林田がテレビをびっくりして見つめる。
テレビのニュースでは強盗事件の詳細が伝えられている。
林田「なんで?いったい何で、お金に困ってもいないのに犯罪を犯すんだ?…」
林田が立ち上がる。
林田の心の声「ひょっとして、俺は今の立場じゃ、わからないことがあるのか?」
テレビの音「国会では…」
林田「国会かぁ」
○駅前
大勢の民衆が集まる中、林田が選挙カーの上に乗って演説をしている。
林田「私が当選した暁には…」
○選挙事務所・中
林田がだるまに目玉を入れている。
林田の心の声「…当然、当選した。俺以外は立候補しなかったからな」
○国会議事堂・階段前
林田を中心に大臣が並んで記念撮影をしている。
カメラマンが林田に向かって。
カメラマン「総理!こっちに目線下さい!」
林田「はい。はい」
林田の心の声「こうして俺は名実ともに日本の最高権力者になった」
○総理官邸・中(夜)
林田が机に座って紙にペンを走らせる。
林田の心の声「俺は、まずこの世から悪を消すことにした。悪が無くなればみんなが住みやすい生活が出来る」
林田が立ち上がり、窓から夜景を見つめる。
林田「悪がはびこる世界は今日で終わりだ。今日のうちにせいぜい楽しむがいい。今日までは楽しんでてもいい。明日には新世界の幕開けだ。悪のいない世界が出来る」
林田がカーテンをしめる。
○同・寝室(朝)
林田が大きなベッドで寝ている。
物音がして林田がゆっくり目を開ける。
林田を武装した多数の警官隊が囲んでいる。
林田「なんだお前たちは?」
警官「取り押さえろ!!」
警官たちが林田に襲いかかる。
林田「ク、クーデターか?」
林田が取り押さえられる。
林田「な、何で俺がこんな目に」
警官「あなたがお決めになった法律にしたがったまでです」
林田「俺は悪をなくそうとしただけだ!」
警官「ですから、一番の悪を今、無くそうとしてるんです」
終わり
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