昔の記憶 第十二話
○児童保護施設(回想)
『赤ちゃんポスト』と書かれているボックスがある。若い夫婦が箱を開けて中に赤ちゃんを入れようとすると、すでに赤ちゃんが一人入っている。一瞬、たじろぐが構わずそこに、赤ちゃんを入れる夫婦。
愛の声「二人とも、肉親の記憶はありません。親から与えられたのは、名前と」
職員が来て、二人の赤ちゃんを抱き上げる。赤ちゃんの胸の部分に『岩見経厳』と刺繍がある。もう一人の赤ちゃんには『優子』と刺繍がある。
愛の声「先生には誰にも負けない絵の才能。そして、奥様には名前の通りの優しさだけでした。でもそれだけで充分でした」
○公園(回想)
家族と楽しそうに遊ぶ子供を見る、子供の経厳と優子。
愛の声「時には他の家族を見て、うらやましいと思う事はあったそうです。だからお二人には理想の家族像と言うのがあったみたいです。理想の家族を作るためにも、お二人は協力して生きることにしました」
○児童保護施設(回想)
子供の経厳が描いた絵を見ている優子。
愛の声「経厳先生の絵の才能を最初に見抜いたのは奥様でした。最初に奥様が先生の絵を見られた時、直感的に『これは凄い。これは絶対誰にも負けない』と思われたそうです」
○アパート(回想)
高校生くらいの経厳がひたすら絵を描き続けている。優子が外へ出て行く
愛の声「奥様は先生の絵が絶対にものになると信じておられたので、中学を卒業するとすぐに、ご自分は仕事に就かれて、先生に自由に絵がかける環境をつくっておられました。いい絵が描けると先生はすぐに奥様に見せられていたそうです。奥様も絵を見るとたいそうお喜びになられたそうです。奥様は先生の最初で最大のファンでしたから」
○役所(回想)
婚姻届を出しに行く経厳と優子。
愛の声「先生が結婚出来る年齢になった日には籍をいれたそうです」
○画商(回想)
高校生くらいの汚い格好をした経厳がスーツを着た人に絵を見てもらおうと差し出すが、スーツを着た人は経厳の格好を見ただけで絵をほとんど見ないで断りをいれる。
愛の声「絵は最初、当然売れませんでした。それでも、先生は何度も、何度も、何度も画商の元へ通いました。そのうちに先生が画商尾元へ通っていた道はそのうち、画商が先生の元へ通う道に変わっていったそうです」
○マンション(回想)
ほとんど何も無かったマンションに最低限の家財道具がそろっていく。和服を着た経厳が絵を描いていく。
愛の声「一部からは『日本画の天才』と呼ばれるようになって絵だけで充分な生活が送れるようになっても、先生達は子供をお作りにはなりませんでした。子供には自分と同じ苦労をして欲しく無かったからです」
○経厳の家・一軒家(回想)
お手伝いさんの山本が家の掃除をしている。妊婦の優子がいる。
愛の声「お手伝いさんを雇えるほどになり、子供に貧しい思いをさせなくても、すむほどになり、幼い頃に思っていた理想の家族作りが始まりました」
○病院(回想)
優子が赤ちゃんを抱いている。経厳がすごく喜んでいる。
愛の声「子供の誕生に二人は心の底から喜びました。普通の人の喜び以上の喜びでした。二人にとっては初めての肉親だったからです」
○ホテルの部屋(回想)
取材を受けている経厳。
愛の声「先生の仕事も絶好調で一般誌からも取材を受けるほどでした。ただし、顔を出すのはさけておられました。先生は理由を教えてくれませんでしたが、おそらく知らない親戚が出てくるのが嫌だったのでしょう。実際、一度、先生の経歴を少し載せたら何人か現れましたから。…そんな公私絶好調の時に、あの事件は起こりました…」