昔の記憶 第一話
○暗い部屋(回想・カットバック)
白衣を着て、口には手術用のマスクをしている人が顔を近づけてくる。
白衣「心の準備は良いですか?」
○鈴木家・実の部屋(朝)
鈴木実(32)が目を覚ます。
実「は!」
実が辺りを見回す。ちょっとぽっちゃりした体型の鈴木和子(58)が実を見て驚く。
和子「はぁぁ!実が気が付いたわよ。ちょっと、お父さん!」
ほっそりとした体格の鈴木清(62)が実の顔をのぞき込む。
清「実…」
和子「大輔!愛!来なさい!実が目を覚ましたわよ!」
がっしりとした体型の鈴木大輔(35)とモデル体型の鈴木愛(25)が部屋に入ってくる。
大輔「よかった。心配したぞ」
愛「お兄ちゃん。もう大丈夫なの?」
実がみんなの顔を見つめる。
壁には日本画が飾ってある。
○暗い部屋(回想・カットバック)
白衣の人がカメラに向かって、強い光を当ててくる。
○鈴木家・実の部屋(朝)
実が頭を押さえる。
和子「実!大丈夫?」
実「ここはどこなんだ?」
清「実?」
実「俺は誰なんだ?」
大輔「おい!実?どうしたんだ?」
実「君たちは誰なんだ?」
愛「お兄ちゃん(実に抱きつく)」
清「なにも…覚えてないのか?」
実がうなずく。
清「そうか…何も覚えていないのか」
清が部屋を出て行く。
和子「ちょっと、ご飯持ってくるわね。お腹すいたでしょ」
実「はぁ。まぁ」
和子が部屋を出て行く。
大輔「俺の事覚えてないのか?」
実「…ごめん」
大輔「…そっか。ちょっと、母さん手伝ってくる」
大輔が部屋を出て行く。
愛「お兄ちゃん、愛の事は覚えてるよね」
実「…ごめん。思い出したいんだけど思い出せない…」
愛「そっか。心配しないで、愛が色々教えてあげる」
和子が食事を持って入ってくる。
和子「はい。お待ちどう様。朝ご飯ですよ」
愛「この人がお母さんよ」
実「お母さん…」
和子「何?今さら、自己紹介なの?」
愛「しょうがないじゃない。お兄ちゃん、本当に全部忘れちゃったみたいなんだから」
和子「お母さんの和子よ。よろしくね。ほら食べなさい」
実「はい。(実がおにぎりを食べる)
大輔が部屋に入ってくる。
大輔「母さん、醤油ってこれでいいの?」
愛「一番上のお兄ちゃん。ほら、大輔兄ちゃん自己紹介してよ!」
大輔「なんだよ」
愛「いいから!」
大輔「愛は実の事になるとすぐ、ムキになるんだからな…俺は長男の大輔」
大輔が実と握手する。
愛「あれ?お父さんは?」
和子「知らない」
大輔「知らない。たばこでも吸いに行ってるんじゃないか?」
愛「大輔兄ちゃん。ちょっと呼んできてよ」
大輔「わかったよ」
和子「本当に覚えてないのね」
実「はい…すいません」
和子「ちょっと、家族なんだから敬語はやめましょうよ」
愛「そうよ。お兄ちゃん。家族なんだから」
和子「ちょっと、洋子ちゃん。あなたは自己紹介したの?」
実「え?洋子?」
愛「ちょ、ちょっと、母さん!洋子は私の友達じゃない。何言ってるのよ。本当にもう、おっちょこちょいなんだから」
和子「あら、いやだ。私ったら…」
愛「私は妹の愛。よろしくね」
大輔が清の手を引っ張って部屋に入ってくる。
大輔「連れてきたぞ。やっぱりたばこ吸ってた」
愛「お父さん、自己紹介して!」
清「お父さんの清です。よろしくお願いします」
実「よ、よろしくお願いします」
愛「ちょっと、お父さん達、何かぎこちないよ(笑)」
和子「本当よね(笑)」
大輔「ははっはは(笑)」
清「そうだな。っははっは(笑)」
実「ちょっと、ごめん」
実が立ち上がって部屋を出る。
和子「ちょっとどこ行くの?」
○同・二階廊下(朝)
廊下には日本画があちこちに飾られている。実が廊下に出て日本画を見つめる。和子と愛が廊下に出てくる。
愛「ちょっと、お兄ちゃんどこ行くの?」
実「ちょっと、トイレに…トイレってどこだっけ?」
和子「あ、トイレなら…えっと」
愛「(遮って)そこの廊下の突き当たりよ。そっちの」
実「こっちの突き当たり?」
和子「そうそう。突き当たりよ。突き当たり」
愛「私が案内するよ」
愛が実の手をつなぐ。
実「トイレくらい一人で行けるよ」
愛「病み上がりなんだから無理しないで」